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【五輪コラム】大がかりな開会式は必要? 北京の式典、疑問や矛盾も

2022/2/8 14:44 (2022/2/8 15:10更新)
 開会式で北京冬季五輪の聖火をともしたウイグル族のジニゲル・イラムジャン(左)と趙嘉文=4日、北京(共同) 拡大する

開会式で北京冬季五輪の聖火をともしたウイグル族のジニゲル・イラムジャン(左)と趙嘉文=4日、北京(共同)

 4日の北京冬季五輪開会式を現場で取材する機会に恵まれた。開始約3時間前の午後5時ごろに、2008年北京夏季五輪でもメインスタジアムだった会場の国家体育場に着いた。約9万1千人収容の巨大スタジアムは「鳥の巣」の愛称で知られ、木の枝のように鉄骨を組み合わせた独特の外観で、威容を誇る。記者席は1階のスタンド。厳しい冷え込みの中、膝掛け、耳当てに、同僚が持ち込んだカイロも使わせてもらい、寒さに身を縮めながらじっとスタートを待った。

 開会式は、いわば大会の「顔」となるイベントだ。今回は一体どんな内容になるのか、個人的にも強く興味を引かれた。前回の08年北京大会開会式の強烈な印象が頭に残っていたからだ。

 14年前は五輪担当ではなかったし、現地にいたわけでもない。テレビで見ただけなのだが、それでもスケールに圧倒された記憶がある。とにかく出演者の数が多く、その一糸乱れぬ動きがまさに壮観。ハイライトとなる聖火の最終点火もど派手だった。体操五輪金メダリストの国民的スター、李寧氏がケーブルで60メートルほどの高さにつり上げられ、空中を駆け抜けるように進んで火を付けた。

 世界最多約13億人もの人口を抱え、驚異的な経済成長で超大国に躍り出ようとしていた当時の中国。その勢いを、そのまま映し出したかのような式典だった。

 今回の五輪開会式の総監督に起用されたのも、08年と同じ中国の著名な映画監督の張芸謀(チャン・イーモウ)氏だ。ということは、演出は前回と同じ路線でいくのかと思いきや、北京入り後に本格的に調べてみると、意外にも、張氏が全く異なるものになると現地メディアに予告していた。新型コロナウイルス禍の北京大会の運営方針は「簡素、安全、精彩」。これに沿って、式典も華美なものにはしないという。

 さて、どうなるか。午後8時、いよいよ式が始まった。確かに、派手さはなく、出演者も前回よりは少ない。ただ、コンセプトは明確で、シンプルな中にも驚きがあった。雪と氷の祭典にふさわしく、全体のモチーフは「雪の結晶」。そこに二十四節気や干支(えと)など文化の紹介も織り交ぜた。巨大なクリスタルの五輪シンボルや、91の参加国・地域の名が入った雪の結晶のオブジェは、突如フィールド上に出現し、迫力は十分。現場で思わず「おお」と声を上げてしまった。

 「サプライズ」は聖火の最終点火でも。通常はトーチで聖火台に火を付ける方法が採用されるが、今回は最終ランナーが持っていたトーチを、そのまま雪の結晶のオブジェの中心に設置するという異例の方式だった。消えないかと心配になるほど火は小さかったが、張氏によると「小さな光で世界を明るく照らすことができるという中国の伝統的な考え方」などを反映しているという。これはこれで味わい深かった。

 一方で、新疆ウイグル自治区のウイグル族の人権問題などを巡って国際社会の賛否が分かれる大会だけに、矛盾や疑問も感じた。式典は「一つの世界、一つの家族」など連帯を強調したものだったが、そのメッセージを覇権主義的な動きを強める国が発することには、違和感を覚えた。ウイグル族への人権弾圧を非難してきた米英などが「外交ボイコット」に踏み切った中、最終ランナーにウイグル族の選手を漢族の選手とともに起用し、民族融和を演出したのも「政治的なメッセージ」との印象を拭えない。

 さまざまな感想を持ったが、日付が変わった深夜の帰りの道すがら、冷え切った体でふと考えた。五輪に、今のような大がかりな開会式は必要だろうか、と。もちろん、4年に1度、世界中の目が注がれるスペクタクルとしての価値はあるし、式典を通じて開催国の歴史や文化を知りたいと楽しみにしている人も多いはずだ。テレビ放送権販売を最大の収入源とする国際オリンピック委員会(IOC)にとっても欠かせないコンテンツの一つだろう。

 その一方で、通常、外国首脳の多くが集うのは開会式のタイミングだから、もしその式典がなければ今回のように「外交ボイコット」といった動きが取り沙汰されること自体がなくなるのではないかと思える。そもそも式典が国威発揚の政治アピールの場として使われることもない。サッカーやラグビーのワールドカップ(W杯)では、開幕試合の前のセレモニーは五輪ほど大規模ではない。それでも世界が注目するイベントとしての地位を築いている。

 五輪から、開会式がもし消えれば、私たちは寂しさや物足りなさを感じるだろうか。(共同通信・長谷川大輔)

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