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【五輪コラム】なぜバッハ会長は嫌われるのか 矛盾、分断に五輪のイメージ低下

2022/2/7 17:03 (2022/2/7 18:05更新)
 北京中心部の公園にお目見えしたIOCのバッハ会長の胸像=1月26日(共同) 拡大する

北京中心部の公園にお目見えしたIOCのバッハ会長の胸像=1月26日(共同)

 北京冬季五輪の開会式が行われた4日、国際オリンピック委員会(IOC)の「バッハ会長」がツイッターのトレンドワードに入った。昨夏の東京五輪で不評だった長いスピーチが繰り返され、放送プロデューサーのデーブ・スペクターさんは「バッハ会長の登場で視聴率が10%下がった」と辛口の投稿。北京市内にはバッハ氏の胸像が建つなど中国の厚遇ぶりは明らかで、メディアも歓迎ムードを演出する。対照的に、日本では「ぼったくり男爵」の悪役イメージが完全に定着した。

 数年前に「バッハを知っているか」と尋ねたら、大半の人は作曲家を思い浮かべただろう。知名度を一気に上げたIOCのトップ。しかし、なぜこれほどまでに不人気なのか―。バッハ氏の周辺は首をかしげる。昨夏に共同通信が配信した連載企画「IOC解剖」の記事から証言を再録する。

 「ぼったくり男爵? それは事実ではない。彼は全ての人の意見に耳を傾ける人間だ」(ドイツ五輪スポーツ連盟の事務局長として初代会長だったバッハ氏を支えたフェスパー氏)

 「指導力に優れ、団結や信頼関係構築を重視する」(ドイツの記者からIOC広報に転身したクラウエ氏)

 「法律家らしく慎重に言葉を選ぶ。納得しなければ、とことん突き詰める性格だ」(スピーチライターのブーハー氏)

 日本国内の世論とは、受け止め方にかなりの相違がありそうだ。今年1月に三菱総合研究所が発表した調査結果では、IOCを「とても信頼している」「信頼している」「ある程度信頼している」と回答したのは、計18%にとどまった。

 フェンシングの西ドイツ代表として1976年モントリオール五輪で団体金メダルに輝き、引退後は弁護士に転身、と経歴は申し分ない。しかし、筆者がIOCを担当した過去5年余りでバッハ氏の言動から感じたのは「矛盾」の一言に尽きる。

 中国の元副首相に性的関係を迫られたと訴えた同国女子テニスの彭帥さんの安否が懸念される問題では、テレビ電話で安全を確認したと主張するバッハ氏とこんなやりとりがあった。(昨年12月の記者会見)

 筆者「彭帥さんと直接会ったことは。リモートで話した女性が本人だと、どう確認したのか。そっくりさんかもしれない」

 バッハ氏「一度も会ったことはないが(同席者を含む)誰一人として疑うことはなかった。そんな考えをする人はあなたが初めてだ」

 筆者「彭帥さんが安全であるならば、IOCの支援は不要ではないか」

 バッハ氏「彼女は非常に不安定な状況にあるからだ」

 会見後、知り合いの記者からメッセージが届いた。「(バッハ氏は)矛盾を突かれて珍しく感情的になっていましたね」

 五輪開催国の中国を巡る対応にも疑問を感じる。開幕前日の記者会見。新疆ウイグル自治区の人権問題について意見を求められると「IOCは政治的に中立でないといけないのでコメントしない。政治的な立場を示すと、緊張や対立に関与することになる。そうなると五輪がリスクにさらされる」と回答を避けた。

 ロシアは2014年ソチ冬季五輪・パラリンピックと同時期にウクライナ南部クリミア自治共和国に軍事介入した。バッハ氏が胸を張る国連休戦決議は有名無実化しているのでは、との指摘も「IOCは決議に関して何か権限を持っているわけでも、各国政府と政治的な話ができるわけでもない。五輪参加者が安全に来られるようにと訴えるしかない」とかわす。

 新型コロナウイルス禍で東京五輪開催に反発が高まった昨年、バッハ氏は「日本国民の皆さんが大切だ」と呼び掛けながら、閉幕直後には同氏とみられる人物が銀座で目撃され、国民感情を逆なでした。ちなみに「銀ぶらしていたのは本人か」とIOCに問い合わせても回答さえなかった。

 日本では抗議デモや新聞、テレビの厳しい論調に遭った。東京パラリンピックの開会式出席のため再来日した際には、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長から「なんでわざわざ来るのか。常識で判断できるはずだ」と批判を受けた。離日に際し、周囲にこう怒りをぶちまけたという。「こんなひどい扱いを受けるのは初めてだ!」。関係者は「最後の最後にバッハさんの素顔がのぞいた」と語る。

 バッハ氏と旧知の仲のフェスパー氏は「日本国民や都民の気持ちは理解できる。一方で、IOC会長は1万人以上の選手やスポーツ界全体の代弁者でなければいけない。それが彼の責務だ」と訴え、東京五輪開催を推し進めた判断に理解を求めた。ただ、対話や説明を欠いたことで、五輪やスポーツへの嫌悪感を招いたことも事実。五輪の理念に掲げる「団結・連帯」と逆行する「分断」が生じていることに気付いているのだろうか。

 東京五輪の検証も終わらない中で、日本は30年冬季五輪の札幌招致に前進している。IOCにとって「物わかりの良い」国は、再び絶好の選択肢になる。国民が歓迎してこそ意義のある国家的イベント。招致が実現したとしても、今から8年後、バッハ氏は既に会長を退任している。(共同通信・井上将志)

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