つらい3日間だったに違いない。3日のフリースタイルスキー男子モーグル予選1回目から流れに乗れない中で、何とかつかみ取った銅メダルだった。メダルを決める決勝3回目は第1エアの着地後に衝撃を吸収しきれずに、コブにはじかれるミスが2度続いたが、開き直って鋭いターンで加速した。ゴールした時点で最上位に立ち、メダル獲得を決めて安堵する姿に堀島行真(トヨタ自動車)の成長を見た。
▽勝ちパターンに入れず
堀島は今季のワールドカップ(W杯)で3勝を挙げ、金メダル候補に挙げられていた。勝ちパターンは予選で高得点をたたき出し、絶対王者と称されるミカエル・キングズベリー(カナダ)にプレッシャーを与えて自滅を誘うというもの。この北京冬季五輪でもそれを狙っていた。
予選1回目はカービングターンでぐんぐんとスピードに乗り、そのまま第2エアへ。ところが高く飛べずに前に予想外に飛距離が出た。コースは着地予想ゾーンにはコブを作らず、雪面を軟らかくしておくのだが、このゾーンを飛び越えた。強い着地ショックを受けて、すぐにターンに入れず、エア点からもターン点からも大きく減点され、16位に沈んだ。
▽スピードを出せないジレンマ
もう失敗できない。予選2回目からはスピードを抑えた安全運転をせざるを得なかった。スキーの左右への振り幅は大きく、コントロール性を重視する滑りに。最後までプレッシャーをかけられず、王者を楽にした。
斜面も味方しなかった。ある審判員は「五輪なのにあっと驚くようなエアや滑りがなかった。普段のW杯と同じ」と評した。それは人工雪で冷え込み、エッジが引っ掛かりやすいという条件だったからだと思う。上位4位まで第1エアがフルツイスト(伸身の後方1回宙返り1回ひねり)、第2エアがコーク10(軸をずらした3回転)と全く同じ。リスクが小さく高得点が出しやすい無難な組み合わせを選んだ。
▽ダークホースが優勝したわけ
先月、W杯で100回目の表彰台に乗ったキングズベリーは残念ながら全盛期は過ぎ、全力でアタックするとコース中間付近で暴走気味になるミスを犯しがちに。王者はそんなことは百も承知で、レースをコントロールする作戦を取った。ターン点を確実に稼ぐ深い弧を描き続け、危なげなかった。自分を上回る実力があるのは堀島だけと意識。その堀島よりも高いポイントを出せば五輪連覇は達成できると考えていたはずだ。
そこに隙が生じた。W杯で一度も勝ったことのないバルテル・バルベリ(スウェーデン)が決勝3回目の最後に一発勝負をかけた。決勝2回目より0秒4も縮める驚異的なハイスピードで滑り降りた。キングズベリーにターン点で0・8点劣ったが、スピード点で1・74点の大差をつけた。トータルでも1・05点上に立ち、金メダルを獲得した。本来、堀島がやるべき勝ち方をバルベリにやられてしまった。
「本当の夢は金メダル。ここから競技を頑張りたい」と話した24歳の堀島。オフシーズンには親しい関係者に「2030年札幌五輪まではトップ選手で居続ける」と宣言したとも聞く。キングズベリーに続く王者の地位をバルベリに譲ることなく、トップを突っ走ってほしい。(全日本スキー連盟A級審判員、スポーツライター・石井浩)