4日に行われた北京冬季五輪の開会式に米欧の主要国は国家元首や首脳を派遣しなかった。中国の少数民族ウイグル族への人権侵害などに対し、反対と抗議の意思を表す「外交ボイコット」を米国が主導したからだ。日本も昨年12月に政府代表団の派遣見送りを決め、欧米に歩調を合わせた。
▽民主主義と専制主義
2年後にパリ夏季五輪の開催を控えるフランスは当初、政府の代表を開会式に出席させる方向で調整を進めた。すると、哲学者や映画監督ら文化人が反対の声を上げた。政府代表を派遣すれば、われわれは中国で起きている深刻な問題に無関心でいることになってしまう、というのが彼らの主張だった。香港での民主派弾圧、台湾に対する軍事的な威嚇にも触れ、中国は「民主主義陣営を脅かす全体主義国家になった」と訴えた。
バイデン米政権は現在の国際情勢について、民主主義と専制主義による対抗と緊張の状態にあると説明する。もちろん念頭にある対抗勢力は中国とロシアだ。今回、五輪開会式出席のため訪中したプーチン大統領は開会式前に習近平国家主席と会談し、共同歩調を取る重要性を確認した。両陣営の対立姿勢は鮮明になっている。
▽外交ボイコットの限界
外交ボイコットについて「政治による五輪への介入であり許されない」あるいは「五輪に暗い影を落とすものだ」との批判がある。しかし、こうした受け止め方ではない人は、フランスの文化人に限らずいるのではないか。
自国の選手団の参加を国家権力によって差し止める完全なボイコットと大きな違いがあるように思う。選手の五輪に出場する権利を奪い去る、人権侵害ではない。そのような理不尽さは、外交ボイコットには見当たらない。
実際、五輪選手の受け止め方はどのようなものだろう。大方の声は「そんなもの関心ありません」「勝手にやってください」というところではないか。
一生に一度あるかどうかという晴れ舞台に上がる直前に、あるいは将来の自身の生き方が決定するかもしれない瞬間が目の前に迫る中で、自国の首相やスポーツ担当大臣が開会式に出ているのか、欠席したのか気に掛ける選手はまずいないだろう。開会式で入場行進する選手ですら、VIP席に関心を持つことはないと思う。
▽IOCは劇場持たない興行主
外交ボイコットは開催国の政府に対する、外交的な攻撃のパンチではあっても、五輪の競技に負の影響を及ぼすことはない。また、出場選手が不快に感じるものでも、迷惑に思う行為でもない。今大会も、試合会場ではメダルを獲得した選手の喜びの爆発があり、それを逃した選手の悲しみの涙があるはずだ。試合直後にライバルと健闘をたたえ合う笑顔も数多く見られるに違いない。
では、国際オリンピック委員会(IOC)に与える影響はどの程度大きなものになるのだろう。こちらも、さほど大きくないように思う。五輪開催についてIOCは総括的な責任を負うが、開会式に招かれる各国政府代表に関しては、開催国政府の専権事項だ。
劇場を持たない興行主という立場のIOCとしては「劇場の来賓の出欠につきましては、招待されたそれぞれの方が独自に判断されることなので、われわれには口を差し挟む余地はございません」と、ひらり身をかわすのだろう。(共同通信・竹内浩)